夜の世界の物語

はじめに

ここでは、私が夜の世界で経験した

”貴重な体験”や”今でも心に残っている言葉”を

ショートストーリーにしてお伝えしていきます。

 

一見、ネットビジネスに何の関係があるんだと

思われる方もいるかもしれません。

 

確かに仰る通りかもしれませんが、

多くのVIPの方達や、そんなお客様をもてなしていた

ホステスさん達の話は、その業界に限らず

ビジネス全般に通ずるものがあると思います。

 

少しづつ更新していきます。

 

お時間が許しましたら、閲覧していただけると嬉しいです。

 

あっ!ほぼノンフィクションです。

(自分以外の登場人物は仮名です)

 

著者 柳澤貞春

 

第一話「私、早く歳をとりたいんです。」主人公 まい(20才)

 

会えて良かった、心からそう思うよ。

 

「がんばってね!」

 

そう一言伝えて、電話を切った。

 

まいとの出会いは、当時オープンしたばかりの

ミドルエイジの大人向けのお店だった。

 

そこに面接にやってきたまいは私に、

「ナンバーワンになりたいんです」

と言ってきた。

 

スラっとした体型で切れ長の目、ハスキーな声、

年齢の割にとても落ち着いた接客をする女の子だった。

 

容姿が飛びぬけて目立っていたわけではないが、

丁寧な接客で指名のお客様を作っていった。

 

毎日その日の事を話し合い、お互いの信頼を深めていった。

 

そんなまいを営業中初めて叱った。

 

「もう、帰っていいよ」

 

「分かりました。すいません」

 

いつものようにテーブルを抜けてきたまいに声をかけた。

 

「連絡先教えてくれた?」と私が聞くと

「すいません、聞いてません」とまいが言った。

 

「名刺は渡した?」と私が聞くと

「忘れました」と面倒くさそうにまいが言った。

 

いつもと違うまいの態度に

「フリー(指名の決まっていないお客様)に

回りたい子はたくさんいるんだよ。

 

やる気がないならもうフリーに回さない、

お客様に失礼だ」と私が言うと

「今日はなんかダメなんです」とまいが言った。

 

覇気のない、まいの様子を見ていて

叱りたい気持ちも通り越して呆れた。

 

「もう、帰っていいよ」

 

「すいません、がんばります」という言葉が聞きたかったのに、

そそくさとまいは帰って言った。

 

次の日、まいに電話をかける。

 

いつもより長いコール音。

 

一瞬出ないかと不安にもなったが、

「おはようございます」

といつもの調子に戻っていた。

 

ほっと胸を撫で下ろしたが、

その日の営業後、

まいに「おつかれさま」と声をかけた瞬間、

安堵の気持ちは崩れ去った。

 

「私、お店辞めます」とまいが言った。

 

「なんで?」と聞くと、

「田舎に戻ろうと思うんです」とまいが言った。

 

まいの何かを決意した表情にそれ以上聞けなかった。

 

それから一年。

 

私はオープン前から携わってきたお店を

移動することになった。

 

移動は突然知らされる。

 

知らされて次の日に、移動先のお店に向かった。

 

時間の合間を見て、

次のマネージャーへの引き継ぎ事項を伝える。

 

そして、今まで自分を信じて

共に歩んできてくれたホステス達に、

感謝の言葉とこれからの激励をかけていた。

 

ふと電話を持つ手が止まる。

 

工藤 まい

 

あの日、もっと違う対応をしていたら、、、

あの時、もっと話すことが出来ていたら、、、

他のマネージャーが担当していたら、、、

今もお店で活躍してくれていたかもしれない。

 

今からじゃ遅いけど、まいに謝ろう。

 

一年ぶりにかけるまいへの電話。

 

体中から汗が出るくらい緊張する。

 

「もしもし、まい久しぶり」

 

「やなぎさん、ビックリ!お久しぶりです」

 

「元気にやってる?」

 

「元気ですよー!どうしたんですか?」

 

「あの時は、、、ごめ」

 

「やなぎさん、私今幸せです」

 

私の言葉を遮るようにまいは言った。

 

「あの時実は、お母さんが倒れたんです。

 

動揺して仕事にならなかった。

 

誰かに話すことで実感するのが怖かった。

 

言えなくてごめんなさい。

 

今は故郷の仙台で、

お母さんが経営してたカフェの店長をやっています。

 

毎日大変だけど、楽しんでやっています。

 

私、早く歳をとりたいんです。

 

きっともっと素敵な女性になるから」

 

会話を遮ったタイミング、選ぶ言葉一つ一つに、

まいの優しさを感じた。

 

早く歳をとりたい、、、か。

 

この年代の女性から、こんなこと聞いたのは初めてだな。

 

まいは、自分の未来をしっかりと見据えてるんだろうね。

 

「がんばってね」

 

短い間だったけど、まいの事は忘れないだろう。

 

もしまた会うことが出来たら、

ミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら、

あの頃の話や今の話、そして未来の話をたくさんしよう。

 

もっと素敵な女性になったカフェの店長さんと。

 

第一話 完

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